なぜ“いいハサミ”は一生モノと言われるのか
― それは「研ぐから」ではなく、「狂わないから」―
「いいハサミは一生モノ」
そんな言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
何十年も同じ一本を使い続け、定期的に研ぎに出しながら大切に手入れをする――
どこか職人道具のようなイメージを持つかもしれません。
ですが、趣味の手芸や日常使いにおいて、実際にハサミを研ぎに出す人はそれほど多くありません。
それでも「いいハサミは長く使える」と言われるのはなぜなのでしょうか。
「一生モノ」とは、壊れないことではない
まず、「一生モノ」という言葉には少し誤解があります。
それは“永遠に切れ味が落ちない”という意味ではありません。
本質は、
使えなくならないことではなく、使いにくくならないこと。
開閉のガタつきや刃のズレ、余計な力が必要になる感覚――
こうした小さな違和感が起きにくい道具ほど、結果的に長く手元に残ります。
切れ味よりも「精度」が体験を左右する
ハサミの評価は、単純な刃の鋭さだけで決まるわけではありません。
ネジのゆるみ、刃の合わせ、金属の硬さ、開閉の滑らかさ。
これらが安定しているかどうかで、「なんだか使いにくい」という感覚が生まれるかどうかが変わってきます。
ただし、どんなに評価の高いハサミであっても、
すべての個体が完全に同じ精度であるとは限りません。
また、用途や手の大きさによって「合わない」と感じることもあります。
“いい道具”とは、万能な一本ではなく、
自分の用途にきちんと合っている一本なのかもしれません。
現実的な手入れは「研ぐ」よりも「扱い方」
日常使いのハサミにおいて、多くの人が行う手入れは「研ぎ」ではなく、
- 使用後に軽く拭く
- 無理に硬い物を切らない
- 落とさないように保管する
といった、ごく基本的な扱い方です。
だからこそ、頻繁なメンテナンスを前提としない設計や、
日常使用でのズレや歪みが起きにくい構造が重要になります。
「価格」よりも「買い替え頻度」と「ストレス」
1,000円のハサミを何度も買い替えるのか、
10,000円のハサミを長く使うのか。
ここで重要なのは、価格差よりも
作業中の小さなストレスが積み重ならないことです。
切れ味の鈍さ、力の入りにくさ、刃のズレ。
それらが減るだけで、作業時間や仕上がりは確実に変わります。
一生モノとは「寿命の長さ」ではなく「快適な時間の長さ」
ハサミにおける“一生モノ”とは、何十年も同じ刃を使い続けることではなく、
使っている時間の大半が、快適であること。
完璧な一本が存在するわけではありません。
ですが、自分の用途に合った一本に出会えたとき、その道具は自然と長く手元に残ります。
それが結果として、「一生モノだった」と感じる理由なのかもしれません。




